第210回コミュニケーションの意識と技術を高める言語活動

平成24年10月27日 @内田洋行Future Classroom

発表者:杉本薫先生(都立両国高等学校附属中学校)

今回は場所を変えての開催となりました。プロジェクタとスクリーンに囲まれたFuture Classroom。机や椅子も移動しやすい形態になっています。様々な学習形態、方法をイメージできるまさにFuture Room。発表は機器の活用でも様々な提案をしている杉本薫先生です。この研究会を長勝彦先生とともに創設し、現在まで中心となって運営されています。発表もスクリーンを複数使いながらの「スーパープレゼンテーション」になりました。参加者は25名。□□長先生より 今日は素晴らしい環境の中でどのような授業が可能か考えるきっかけになればいいと思います。私も現役の時になぜ英語科の教室がないのか疑問に思っていました。当時は生徒数が減少して行き、多少の余裕教室がありました。そこを国際理解教室という名前をつけて英語科の教室を作りました。今日の杉本先生の授業を参考に教室環境の整備という観点も持っていただければと思います。

□□ 「コミュニケーションの意識と技術を高める言語活動」 杉本薫(都立両国高等学校附属中学校)

○日常フレーズ集などは先に教えた方がいい まず、発表のWarm-upとして次のような表現をいつ教えるかという投げかけがありました。これらの表現は文法シラバスに基づいて作られている日本の教科書では、なかなかお目に書かれない表現です。 例 これからは自分でやるのよ Now you’re on your own. わかった Got it. (NHKゴガクル通信より) これらは、文法にとらわれず、1年の初期から繰り返し使う場面を作って行くとよい。それが、自己表現やペアワークなどの活動の中でのコンテクストで、自然な流れを作るのに役に立つのです。 ○現在の授業構成の紹介 以下は、杉本先生が現在、中学校1年生を教えている授業の構成です。 1 Greeting with small Talk 1min 2 Bingo 10min 3 Pairwork 15min 4 Read-Write drill 5min 5 Textbook Reading 15min Oral Introduction / Words / reading Aloud / Check of Understanding / Explanation / Reading Drill 6 Greeting 特徴は1〜3がルーティーンワークとして固定されていることです。1つひとつはシンプルな活動なのですが、テンポよく進んでいるので、複雑に見えるかもしれません。この最初のリーティーンをしっかり英語ですすめ、授業の土台を強固にして行くのが杉本先生の授業の特徴の一つでもあります。その中でも、少しずつ活動は進化しており、ルーティーンの中に小さな成長を積み重ねて行き、結果的には大きな成長につながっています。 例えば、Greeting with Small Talkは1年の導入期は日付を言うだけでなく「今日は何の日」などの情報を教師が加えて行きます。これがモデルとなり、2年生に進むと、生徒自身による「今日は何の日」のSmall Talkが行えるようになります。モデルをしっかりインプットし、発表をする際、モデルが自己表現となり再現されるわけです。この自己表現のための布石を1年間かけて仕込んでいるわけです。さらに3年生になると、Small Talkについて感想を言い合ったりする活動へ自然につながって行きます。いきなり感想を言い合ったりする活動は難しいですが、そこに向けた細かい指導が毎日積み重なっていることを見逃してはなりません。杉本先生の授業では、3年間を見通して、小さな成長を積み重ねていく計画性が垣間見られます。 ○Bingoの活用 Bingoはリスニングがメインに考えられますが、Bingo Mapを使い、Where are you now? / Where will you go? /Where were you last time?など会話をすることができるので、活用の工夫次第でリスニング以外の力をつけることがもできます。これは、継続することが大切で、継続することで自然な流れになります。特に時制など定着に時間がかかる項目については繰り返し行います。How long have you been in New York?といった現在完了の文も1年の後半には言えるようになります。同じ素材(地図)を使いつづけながら、意図的に様々な文型を使わせることができます。 長先生より 最初からルールを教えるのではなく、あるていどまとまった段階でルールを教えるのがよい。また、指導をすることも大切。チャットなどはやらせっぱなしにしないことが大切。その点、杉本先生の実践は見習うべき点が多い。 ○Oral Presentation 教科書の内容を絵を使って再現する活動です。複数の絵から自分で絵を選び、説明します。その中に、自分のことや感想を入れたり、聞き手に質問をしたりします。自分の感想も言わなければならないので、本文の内容をしっかり理解していないとできません。このアウトプットの活動が理解の最終的なチェックにもなります。 実際に中1の発表の様子をビデオで見ました。どの生徒も堂々とした立派な発表でした。「間違いの訂正」について質問が出ましたが、杉本先生は、「まず、言わせることが大切」と強調します。それは「間違いを恐れず発信する態度」を育成する土台がこの活動にあると考えているからです。文法のエラーなどは未習であればそれほど気にする必要はありません。ただ、正確性を評価規準に入れた場合はしっかり見る必要があります。教科書を使ったOral Presentationは、スピーチやディベートなどの活動につながる土台として学校で共通理解をはかり、中1から大切にしています。 ○Pairwork 杉本先生の作るペアワークはシンプルな中に、生徒が飽きずに取り組める工夫がたくさんあります。一つは、漫画のキャラクターなどを使い、ペアワークの前のイントロダクションでTeacher Talkをしながら、関心を引きつけることができます。また、毎回シンプルなルールで、生徒は安心して取り組むことができます。 次に、ペアワークへの導入でPowerPointを使ったパターンプラクティス。絵を使い、テンポよく生徒が文型を練習できるスライドは見事です。生徒も絵の変化に集中しながら、無意識にたくさんの文例を練習していることになります。この無意識にたくさん練習している感覚が大切だと感じました。角度を変えて練習することで、同じ文型を繰り返していることになるのです。 杉本先生の実践は、3年間のゴールを見通して、トップダウンで今の授業につながっていることがはっきりとわかります。また、それぞれの活動の目的と手順がはっきりしており、生徒もその流れに自然に身を任せながら学習をすることができます。繰り返す中で、小さなバージョンアップを重ね、育てたい生徒像に近づけて行く計画は、私たちの計画にも取り入れて行きたいことです。先を見通して、今日の授業を作って行く大切さを感じることができました。(山本)

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